人事レポート 経営は科学である
はじめに
今回のプログラム(CSPコーポレート・ストラテジィ変革プログラム)の基本コンセプトを「経営は科学」とした。
「科学」とは条件・環境を整えれば再現性があり実証可能なことを言う。経営学もまた科学であるならば条件・環境を整えることで先例と同様な結果が得られるはずである。
この20数年研修講師として活動すると同時に企業再生に携わってきた。研修とは別に中小企業が中心であるが経営が思わしくない企業9社と向き合ってきた。
2足の草鞋という人もいたが、経験してみると2足ではなく1足であった。つまり、再生の現場で多くのことを学び、学んだことを研修の場で伝えてきたからである。その過程でつくづく思い知らされたことが「経営が傾く企業は必ずどこかに経営の基本や原則をおろそかにしたり、実践しているつもりで形骸化したマネジメントを行っている」ということであった。私の企業再生は、それら企業のマネジメント上の誤り歪みを正し、当たり前のことが当たり前に実践できるようにすることであった。
名将といわれた野球の野村監督が「勝に不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と言ったそうだが、まさにその通りである。経営が傾く企業は必ずその理由・原因があり、その事により望ましい成果にたどり着けないのである。その事を私は敢えて「科学」と言いたい。
人間という大きな可変要因を抱えているからこそ同じ結果にはならないものの、先人の知恵や原則・原理に適うような経営をする事で似たような又は同様の成果につながるはずである。少なくとも役員又は上級管理職として経営の一角を担うからにはそれらの大原則、もしくは外してはならない手順などは熟知しておくべきであろう。
そのような意味で「経営は科学である」としたこのプログラムではそのような健全経営のために整えるべき条件について学んでいただきたいものと思う。その一助として、私が経験した企業再生での有様を述べてみたい。
チーフコンサルタン ト 海雲 龍人(かいうん たつひと)
1 Y 製作所 の事例
Y製作所は大手時計メーカー S 社の下請けとして約30年を経過した会社である。
社員数はパート社員 も含めて凡そ300名 、 3 0 年前に当時 S 社の中堅技術者
であった現社長と仲間数人で S 社を退社、下請工 場を立ち上げて今日に至って
いる。創業後20年ぐらいは日本の時計メーカーの発展とともに大いに潤い、
東京蒲田に工場を構 え社員数も400人を超えたこともあった。しかし、10
年ぐらい前からデジタル化の進展や中国や韓国をはじめとする安物時 計の進出
に押され売り上げも低下傾向にある。そこで10年前により安く安定的な労働
力の 確 保 を 目 指して、 M 県 I 市の工業団地に進出してきた。東京には本社機能と
営業機能だけを残し、製造部門は全てⅠ市 に移したのである。
このころからこの会社の低迷が始まった。時代が機械時計からデジタル時計
の流れ となり、 Y 製作所が得意とした精密金属加工よりも電子部品化による超小
型精密コイル製造や部品の印刷といった製造技術の変 化、さらには低価格化に
歯止めがかからない状態となっていた。このころから赤字に転落し、それ以来
9年連続の赤字が続いて いる。技術面では S 社のてこ入れもあり何とか対応し
てきたが、このままでは会社の存続も 危 ぶ ま れ 、現に S 社からは何時つぶれて
もおかしくないと言われる状態であった。・・・
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